【洋書読書感想文】Funny Boy: The Richard Hunt Biography ~ Vol.3 別れを乗り越えた先に

コラム

Momiji が現在読んでいる最中のディズニー公式“以外”の洋書を紹介します。
こちらの記事では“ザ・マペッツ”シリーズを中心に活躍した人形使い、リチャード・ハントの伝記本 Funny Boy: The Richard Hunt Biography の第11章~第15章を読んだ感想をまとめています。

Funny Boy: The Richard Hunt Biography がどんな本なのかについて、まずはこちらの記事を読んでいただくことをオススメします!

これまでの Funny Boy: The Richard Hunt Biography の感想文はこちらの記事からどうぞ!

11 Making Connection ~広がる世界~

もしもリチャード本人に、第11章の出来事の中でどれが一番印象に残っているか尋ねることができたなら、きっと彼は『大逆転』への出演を挙げることでしょう。

※こちらの作品自体のレビューも、この記事で書いていますのでご参考まで!

1983年に公開されて大ヒットを記録したコメディ映画の『大逆転』。
リチャードはこの作品に悪者の部下役で出演しました。
クライマックスの場面では、主人公たちに振り回されながら、ちょっぴり可哀想&ユーモアたっぷりの活躍を見せてくれます。
人形使いとしてマペット作品で大活躍する一方で、顔出しの俳優としての成功も望んでいたリチャードにとっては、一生の自慢になる経験となったようです♡

そしてプライベートでは、第10章で出会った最愛の恋人、ネルソンとの関係が影響してか、徐々に周囲に自分のセクシュアリティを明かし始める、という変化が起きます。

実際に彼からカミングアウトを受けた友人のひとりが、『スター・ウォーズ』シリーズのルーク・スカイウォーカー役や「キングダム ハーツ」シリーズの英語版マスター・エラクゥス役等でディズニーファンにもおなじみのマーク・ハミル
「マペット・ショー」にマークがゲスト出演して以来、リチャードとマークは家族ぐるみの付き合いをするほどの親しい仲だったそう。
実際マークは今でもときどき SNS でリチャードとの思い出を懐かしむ投稿をしています。

しかしそれほど仲の良いマークが相手でもリチャードは非常に慎重で、事前にそれとなく同性愛の話題をマークに振って、彼が嫌悪感を示すような素振りを見せないか確かめてから、改めてカミングアウトに踏み切ったのだそうです。
リチャードの不安と勇気が伝わってくる、そんなエピソードでした。

12 Changes ~変化のとき~

1984年に「マペット・ショー」から派生したとある番組がスタートし、大ヒットを記録しました。
それは、赤ちゃん Ver. のカーミットたちが活躍するテレビアニメ「マペット・ベイビーズ」
2019年からはディズニージュニア枠でリブート版の「マペット・ベビー」がスタートし、(マペット関連作品にしては珍しく)日本でもちゃんと放送されたので、そちらをご存じのディズニーファンも多いかと思います。

※こちらもシーズン1のレビューをこの記事で書いていますのでご参考まで!

とても夢のある可愛らしいアニメシリーズではありますが、子ども向けということで、「マペット・ショー」の特徴だったエッジの効いたギャグは控えめに…
その作風の違いにリチャードをはじめとする人形使いたちは複雑な思いを抱いていたようです。

“マペットの対象年齢低下問題”は「セサミストリート」にとっても無関係ではありませんでした。
当時アメリカの子ども番組は、対象年齢がどんどん低下&より単純なストーリーが好まれる傾向にあり、「セサミ」はその変化についていくのに苦労していたそう。

そこで救世主となったのが、みなさんご存じ、真っ赤でふわふわな3歳半のモンスター、エルモ
元々はリチャードも含めた複数の人形使いがエルモを演じていましたが、なかなかキャラクターの個性が確立せず…
そんな中でリチャードは、当時若手人形使いだったケヴィン・クラッシュにエルモ役を譲る決断を下します。
その結果、ケヴィンが甲高い裏声を駆使して演じた新生エルモは、瞬く間に子どもたちのアイドルになりました。
よかったね、エルモ♡

こんな具合に時代の流れに翻弄されつつも引き続きマペット作品に全力を注いでいたリチャードですが、ここにきてプライベートで大きな問題が発生。
恋人のネルソンが、不特定多数の男性との出会いの場に出入りしていたことが発覚したのです。
当時はエイズの流行が広がっていた時代で、この事実はただの浮気にとどまらず、ネルソンの命も、そしてリチャードの命も危険にさらすものでした。

この話を初めて友人に打ち明けたとき、リチャードはレストランでの食事中にもかかわらず突然泣き出してしまうほど精神的に参っていたようで…
二重の悲しみ、苦しみ、不安に、読んでいて非常につらかったです。

13 Three Terrible Things ~三つの別れ~

章のタイトルを見るだけで、内容に大体察しがついてしまうのが悲しいところなのですが…
1980年代の半ば、リチャードは3つの大きな別れを経験します。

1つ目は、大切な憩いの場だったケープコッドの別荘が火事で全焼してしまったこと。

2つ目は、最愛の恋人のネルソンがエイズで亡くなったこと。
それもリチャードの誕生日の前夜の出来事でした。

ただ、リチャード本人がインタビューで語ったところによると、リチャードは夜にスーツ姿で医師のふりをして病院に潜入し、度々入院中のネルソンのもとを訪れていたそう。
いやいや、マペット映画のワンシーンじゃないんだから…!w
良い子は真似しないでね!

だけどその甲斐あって、ネルソンが亡くなった夜もリチャードは彼のそばにいることができたそうで、二人が最後にかわした会話は読んでいて救いを感じました。

ネルソンの死後、リチャードはその悲しみを振り払うかのように新しい恋を探そうともしていたようですが、お金目当てでリチャードに近づいてくる人も多く…
結局そんな相手に車を貸したことで、それが3つ目の別れ、大切な愛車の大破につながってしまったのでした。

しかしリチャードのすごいところは、そんな大変な状況の中でも「セサミストリート」や「フラグルロック」の仕事に真摯に取り組んでいたところ!
現在リチャードの持ちキャラの多くを引き継いでいるデイヴィッド・ラッドマンが「セサミ」のレギュラー出演者になったのもこの頃です。
デイヴィッドはこの本の中で、「セサミ」初出演時にリチャードからいきなりその場面の主役になるマペットを操演する大役を任されたというエピソードを披露してくださっています。
デイヴィッド曰く、控えめな性格の自分が早く現場に馴染めるようリチャードが気遣ってくれたのだろう、とのことですが…
いや、それにしたって無茶ぶりすぎるでしょ!w

14 Magic Be with You ~完結!「フラグルロック」~

愛車に別荘に、そして最愛の恋人…
多くのものを失ったリチャードの悲しみを紛らわせてくれたのは、「フラグルロック」の撮影でした。
リチャードはこの番組で、人形使いとしての役割にとどまらない新たな領域へと踏み出します。

たとえば、大切な人の死というテーマを扱うエピソードでゲストキャラを演じるにあたり、ネルソンの死という自らの経験を演技に反映させたり。
あるいは、撮影現場で出演者やスタッフと次々に仲良くなれるその天性のコミュ力を評価され、なんと最終回の1話前という重要なエピソードで監督デビューを果たしたり。

ちなみにリチャードを監督に推薦したのは、他でもないジム・ヘンソンだったそうです♡
さすがボス、見る目がある!!!

Celebrate Puppeteer Richard Hunt #pride

(↑実際に監督して奮闘している様子の映像も残っています!マペット作品の裏側という意味でも興味深いですね)

そしてこの章で何より面白かったのは、「フラグルロック」全5シーズンの撮影を終えての打ち上げパーティーのお話!
このパーティーについては映像が残っていることもあって、本の中での描写がとにかく充実しているんです。
読んでいると自分も実際にパーティーに参加しているような気分になりました♪

その中でも特に印象に残ったのは、リチャードが自分が演じたゴーグ王子というキャラクターにちなんでおこなったスピーチの内容。
ざざっと要約しますと…

子どものような無邪気な心を忘れないゴーグ王子は、いつだってありのままの自分で生きている。
人間は大人になるにつれて自分らしさを見失い、現実の世界に溢れるネガティブな感情にのみこまれてしまいがち。
だけど、そんなときこそゴーグ王子のことを思い出して、ありのままの自分で大丈夫だと信じてほしい。

…うわ~ん、なんて感動的なスピーチ!!!
やっぱり自分らしくいることが何よりも大切ですよね♡

ちなみに、この章のタイトルである Magic Be with You は、実は「フラグルロック」最終回で歌われる挿入歌のタイトルだったりします。
2022年から Apple TV+ で展開中の新シリーズにも使用されていて、サブスクでも配信されているので、よければ聴いてみてください♪

15 Resilience ~挑戦は終わらない~

大切な番組だった「フラグルロック」も最終回を迎え、ちょっと燃え尽き気味になりつつも、また新たな挑戦に取り組むリチャードの姿が描かれているのがこの第15章。
ちなみに章のタイトルになっている resilience とは「回復力」、「弾力性」という意味
最近では、この単語をそのままカタカナ表記した“レジリエンス”という言葉が、ストレスや困難への対処法の話題の中でもよく使われているので、聞いたことがあるかたもいるかもしれませんね。

章の幕開けは、ネルソンと旅行した思い出の地であるイタリアを再訪するも、薬物の所持で警察に捕まってしまい、結局罰金支払いののちに国外退去させられてしまうという大波乱の出来事でしたが、その後はマペット作品の新たな可能性を探って精力的に活動していたようです。

この時期のリチャードの仕事で私が特に興味深いと感じたのは、「セサミストリート」の新キャラクター、プラシド・フラミンゴの創造。
ちょっとナルシストなオペラ歌手のフラミンゴ、という、オペラ鑑賞が大好き&自分が歌うことも大好きなリチャードの趣味・特技が反映されたとってもユニークなキャラクターです。

Sesame Street: Pretty Great Performances

(なんと小澤征爾さんの指揮で歌を歌ったこともあるんですよ! すごい!)

プラシド・フラミンゴという名前は実在のオペラ歌手、プラシド・ドミンゴをもじっているのですが、のちのち「セサミストリート」の特別番組にてプラシド・ドミンゴご本人とのデュエットも果たしているから驚きです!

さらにこの時期には、人形劇番組の舞台裏を描いたシットコム形式のドラマ制作の話も持ち上がり、リチャードはそのパイロット版に人形使い役として顔出しで出演を果たしました。

結局その番組がレギュラー化されることはありませんでしたが、自分ならこのアイディアをベースにもっと面白い作品が作れるはず!とリチャードは考え、なんと自腹で新たなパイロット版の制作を決行
脚本を自ら執筆したり、長年一緒に仕事をしてきた人形使いのジェリー・ネルソン(「セサミストリート」のカウント伯爵役や「フラグルロック」の主役のゴーボー役が有名)を起用したりと、かなり本格的なつくりになっていたようです。

現在でも「セサミストリート」やザ・マペッツで活躍する人形使いさんの中には、個人的に人形劇シリーズを制作して YouTube 等にアップしているかたも少なくないので、もしリチャードが今も生きていたら、仲間と一緒に本業以外にもたくさんの人形劇作品を制作して嬉々としてネットに公開していたのかな~なんて想像が広がりました。

…そうそう、イタリア旅行の件ですが、その後も諦めずにもう一度イタリア旅行に挑戦して、無事にネルソンの遺灰をふたりで旅した思い出の地であるヴェネツィアの運河にまくことができたそうですよ。
めでたしめでたし♡


以上、リチャード・ハントの伝記本 Funny Boy: The Richard Hunt Biography の第11章~第15章の感想をお届けしました。

愛する人との死別にエイズへの恐怖…
そんな大変な状況の中でも、マペット作品の撮影現場では明るく振る舞い、監督業やドラマの制作など新たな領域への挑戦を続けたリチャード。
そんな彼の強さがとても印象に残った章でした。

次回でいよいよクライマックスですね。
第16章~第20章編もどうぞお楽しみに!

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