フック船長はタコ…じゃない? 吹替と原語のまさかの違い【ピーター・パン】

学習記録

Momijiが実際にDisney+の作品を使って勉強する中で、英語学習的に〝気になるな〟〝おもしろいな〟と思った場面を、解説とともにご紹介♪

今回は『ピーター・パン』より、実は吹替と原語でまったく異なる単語が使われている、ピーターがフック船長につけた〝あだ名〟について掘り下げてみます。

【今回のシーン】〝フックはタコだ♪〟

今回は、ピーター・パンが〝空を飛ばない〟〝片手を使わない〟という不利な条件を乗り越えてフック船長に勝利する、終盤の盛り上がりにふさわしい場面を取り上げたいと思います。

爆弾を送り込んで本気でピーターを殺しにかかってきたフック船長とは異なり、ピーターにはフック船長に死んでもらう気はない様子。
代わりに、命乞いをするフックに対して、こんな命令をします

以下、吹替版の台詞をベースに、その場面を簡単にプレイバックしてみましょう!

海賊旗で縛り上げられ、ピーターパンに剣を突きつけられたフック船長。

フック船長「まさか俺を殺しはしまいね、どうだ、坊や。二度とここへは来ない。どんな命令にだって従うよ」

猫撫で声で涙を流しながら命乞いをするフックを見て、ピーターは剣を下ろしてこう命令する。

ピーター・パン「よし、それじゃ俺はタコだと言うんだ

フックの顔に再び剣を向けるピーター。
フックは生唾を呑みこんで、その剣をよけながら、つぶやく。

フック船長「俺はタコだ」
ピーター・パン「大きく!」

今度は腹に剣を突きつけられるフック。

フック船長「俺はタコだ!」

やけになって叫ぶように宣言するフックを見て、ウェンディたちは大喜びで歌い出す。

ウェンディたち「万歳! フックはタコだ、タコだ、タコだ♪」

ピーター・パン 01:11:21~01:11:48

ついにフック船長に完全勝利!ということで、ダーリング家の三姉弟や迷子たちの楽しそうな歌声が印象的な場面です♪
映画を見ながらウェンディたちと一緒に〝フックはタコだ♪〟のフレーズを口ずさんだな~なんて子ども時代の思い出を持つディズニーファンも多いのではないでしょうか?

ちなみに続編の『ピーター・パン2―ネバーランドの秘密―』では、何の因果か、今度はワニに代わって巨大なタコがフック船長をエサと認識して追いかけ回す、という展開もあったりします。

私はてっきり、この〝フックはタコだ♪〟のフレーズをふまえて、続編に巨大ダコが登場したのだとばかり思っていたのですが、『ピーター・パン』を原語版で見たことで、それがまさかの勘違いだと発覚

今回の記事では、そんな原語版と吹替版の違いにフォーカスします!

【原語で聞いてみると…】吹替と原語で異なる海の生き物

タコは英語では octopus といいます。
スパイダーマン関連作を見たことがあるかたは、名物ヴィランのドクター・オクトパスを思い浮かべたかもしれませんね。
本人の手足+ロボットアーム4本で、8本足のタコに見える、というのが名前の由来なんだそうです。

吹替版の「俺はタコだ」という訳から察するに、フック船長がピーターに言わされた台詞は、
I’m an octopus.
だと考えられますが、その場面を原語版で見てみると…

I’m a codfish.

ピーター・パン 01:11:36

octopus じゃない、だと!?!?!?

…私は初めてこの事実を知ったときに、まさにこんなリアクションでした 笑
そうなんです、 octopus じゃなかったんです!

代わりにここで使われているのは codfish という単語。
codfish は「タラ」という意味で、 fish を付けずに単に cod と言われることも多いです。
つまり、原語版では〝フックはタコだ♪〟ではなく〝フックはタラだ♪〟と言われていたわけですね!
(ちなみに字幕版では原語通り〝タラ〟と訳されています)

しかし、なぜピーターたちはフック船長をタラと呼ぶのでしょう?
タラに何か悪口的なネガティブな意味合いがあるのでしょうか?

…と思い、いろいろ調べてみると、これがどうやら世界的な〝謎〟のようでして。
フック船長を codfish と呼ぶ場面は、ディズニー映画版だけでなくバリーの原作にも登場するそうですが、ググってみると日本語圏のみならず英語圏でも、
〝なぜ codfish が悪口なのかよくわからない…〟
との声が散見されました。

『リーダーズ英和辞典 第3版/リーダーズ・プラス』(研究社)によると、 cod には「ばか者」「まぬけ」といった悪口的な意味も一応あるようですが、それにしても相当マニアックな意味であることは間違いなさそうです。

謎が謎を呼ぶ codfish。
敢えて原語から離れて「タコ」と訳した吹替版は、わかりやすさの追求という意味では正しかったのかもしれません。
そして、続編のタコ登場は完全なる偶然だったという事実にも、またびっくり。
そんな偶然あるんだ…!

追記(24.04.21.) 吹替の歴史をさらにさかのぼると…

ありがたいことに、こちらの記事を読んでくださったかたから、この台詞についてさらに興味深い情報をいただきました!

私が引用・紹介している日本語吹替版の台詞というのは、現在 Disney+ の配信に使用されているバージョンの日本語吹替版の台詞に基づいています。
しかし、『ピーター・パン』にはその現行バージョンの吹替版以外にも、声優や翻訳が異なる複数の吹替版が存在しています。
中でも1980年代に流通したビデオに収録されていたバージョンの吹替版(ここでは〝旧吹替版〟と呼ばせてもらいます)は、実際に〝子どもの頃このバージョンで見ていた!〟というファンのかたも多く、今でも根強い人気です。

私はちょうど旧吹替版と新吹替版の切り替わりの時期に子ども時代を過ごしたため、残念ながらこの旧吹替版を見たことがないのですが、いただいた情報によると、
旧吹替版の台詞では、原語と同様ピーターたちがフックのことを〝タラ〟と呼んでいた
のだそうです!

原語に忠実な翻訳にするか、それともわかりやすさを追求した翻訳にするか…
子どもたちが見るディズニー映画の吹替版だからこそ、それぞれの時代でそのバランスに悩みながらひとつひとつの台詞の表現が決まっていたことがうかがえますね。

改めまして貴重な情報ありがとうございます♡

【おまけ】ディズニーゆかりの codfish を集めてみた!

せっかく codfish についてここまでいろいろと考えてきたので、もっともっと深掘りしてがっつり記憶を定着させちゃいましょう!

ということで、ここからはおまけコーナー。
『ピーター・パン』以外に実はこんなところにも!という、ディズニーゆかりのタラ出現スポット?のご案内です。

①ケープコッド@東京ディズニーシー アメリカンウォーターフロント

日本のディズニーファンが cod という単語の響きでまず最初に思い浮かべるのが、東京ディズニーシーのアメリカンウォーターフロントにある田舎町エリアのケープコッドだと思います。

このケープコッドはアメリカのマサチューセッツ州に実在する地名で、港でタラがよくとれたことから、 Cape Cod 、すなわち〝タラ岬〟と呼ばれるようになったのだそう。

あの町の名物はダッフィーだけじゃないんですよ~!

②タラのおじさん from 『ベッドかざりとほうき』

続いては映画作品に登場するタラをご紹介。
1971年公開の実写とアニメーションの合成映画、『ベッドかざりとほうき』です。

動物たちが治める〝ナブンブー島〟の海底にやってきた主人公たちが最初に出会った住人(いや、住魚?)が、ジャケットやメガネを身につけた老紳士風のタラでした。
その名もMr. Codfish (吹替では〝タラのおじさん〟と呼ばれています)、そのまんまですね。

日本では長らくソフト未発売の状況が続いていたため知名度の低い作品ですが、のちの『リトル・マーメイド』を彷彿とさせる美しく楽しい海底シーンは必見!
今では Disney+ でお手軽に鑑賞できるようになったので、今回紹介したタラのおじさんをはじめ、かわいい海の生き物たちにぜひ会いに行ってあげてください♡

③「タラの舞踏会」 from 「ディズニーと歌おう アンダー・ザ・シー」

最後に1990年代初頭に発売されたとあるビデオをご紹介します。
一定の世代以上のかたにとっては、リンク先のパッケージを見た瞬間、懐かしさに涙するレベルかもしれません!?

その昔、画面に現れる歌詞を見ながらディズニーソングを一緒に歌おう!というコンセプト(要はカラオケですね♪)の「シングアロングソング」(のちに邦題が「ディズニーと歌おう」にリニューアル)というビデオシリーズがありました。
「アンダー・ザ・シー」がリード曲となっているこの巻は、ずばり〝海にまつわるディズニーソング特集〟の巻!
『リトル・マーメイド』以外にも『ピーター・パン』や『海底2万マイル』などの楽曲が取り上げられています。

そしてディズニーソング以外の楽曲も時々取り上げられるのが、このビデオシリーズの面白いところで…
「シリー・シンフォニー」シリーズの短編の『人魚の踊り』をはじめとするディズニー映画の海の場面の映像とのコラボレーションで取り上げられたのが、At The Codfish Ball (邦題「タラの舞踏会」)という曲でした。

そもそもタラが舞踏会をしているなんて発想がどこから出てきたのか、ちょっと不思議なタイトルの曲ですよね。
さらにいろいろ調べてみると、もともとは1930年代に活躍した子役俳優のシャーリー・テンプルが出演作の中で歌った曲だったりするそうなのですが…
細かく調べ出すとそれだけで1本記事が書けそうなので、今回はこれくらいにしておきます。


ということで、ひたすらタラについて語り尽くした今回のブログ。
日常生活で役立つかどうかはともかくとして、この場面のおかげでみなさんのボキャブラリーがひとつでも増えるのであれば、ピーターたちに散々馬鹿にされたフック船長も浮かばれるはずです、多分…!

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